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2006/04/09

short story (3)

 11丁目、5番街と6番街の間にあるアパートに僕らはかつて住んでいた。お互いに仕事は忙しかったけれど、戻るべき場所があったから、この街をいつの間にか好きになったし、怖くなかった。ただ、僕はこの国の、あまりにも効率性ばかりを求めるシステムと、自己主張の壁に疲れ気味であった。一方、律子はそういうサバサバとしたやり方を好んだ。だから、何かにつけてよく言い合いもした。
「達哉の考えは日本的ね」
律子の一言がよく僕の心を逆撫でした。
日常がぎくしゃくし出したと思ったときは、すでに元に戻れないところまで来てしまっているものだ。僕たちがそうだった。終わりが近づいてきていることを、二人とも悟っていた。決定的な出来事。それは僕が東京支社に転勤になるという、いつか来るべきときが来てしまたそのことだった。彼女が一緒についてきてくれる可能性はあまりにも低かったけれど、実際、彼女にその意思がないことを知り、呆然とした。彼女はできればこの街で新たな仕事を探してほしいと思っていることを僕に告白することになる。無理だった。僕にはプライドがあったし、好きになった街とはいえ、ニューヨークは勤務地のひとつに他ならなかったから。そして、5年前、僕たちは別れた。
 11丁目の曲がり角には5年前と変わらない佇まいのフレンチカフェがあった。角を曲がって律子と2年間住んだ懐かしいブラウンストーンのアパート前にさしかかった。

つづく

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