« non title | トップページ | Raymond Carver »

2007/12/24

short story for Xmas

ある年の、12月に入ってすぐくらいだったと思う。なんとなくロックフェラーセンターのツリーと付近を映すライブカメラをアパートメントのパソコンで見ていた。翌日は仕事が休みで夜更かししたい気分だったから読書したり、ぼんやりテレビやパソコンを観たりしていたのだ。明け方4時ごろのライブ映像。ヴィレッジにあるぼくのアパートメントからロックフェラーセンターの高層ビルは見えないが、そこよりやや南にあるエンパイアステイトビルなら上3分の1ほどが見える。4時から6時ごろというのは、ぼくが思うには、この街が一番静かな時間帯だ。ミッドタウンといえども、さすがにこの時間は、しかも外は凍えるほど寒い季節だから人気もなく、画像で動いているのは飾りのための旗がゆらゆらと揺れているのと、時折5番街を通り過ぎるイエローキャブくらいなのだが、ぼくはぼんやりとその、同じ島の同じ時間帯の世界一有名なツリーの画像をただ眺めていた。

コーヒーを淹れにキッチンに行ってまたパソコンのところに戻ってみると、その画像のなかに白い人影を発見した。もちろんカメラが遠すぎて顔までは見えないが、おそらく白いコートか白いダウンジャケットを着た女性のように見えた。その白い姿は、10分ほど、バレエダンサーのように可憐に踊ったあと画面から消えた。その間ぼくは画面に釘付けになる。その人が何歳なのか、どこの国の人なのか、そういった情報はライブカメラの画像からはさっぱり読み取れない。そして、その日からぼくは毎日、同じ時間帯にベッドから起きだして小さな2間のアパートメントのリビングとして使用している部屋の窓辺の机に置いたパソコンに向かうことになる。

朝方のその時間は、窓の下をゴミ収集車がゴーッという音をたてて近づいてきてまた遠ざかっていく。この時間に起きて働いている人もいるのだ。そのことに、不思議な安堵感を覚える。12月20日の明け方。そしてぼくはほっとする。いつものように画面に彼女が現れたから。想像を廻らせてみる。彼女はきっとブロードウェイかリンカンセンターの舞台を目指すダンサーかバレリーナ。深夜のバーの仕事の帰りか、または早朝から店を開けるデリにこれから出勤するところか。

クリスマス用のライブカメラは、おそらく26日には取り外されるだろう。あと彼女に会えるのも5日ということか。

いま思えば、見知らぬその人を、当時ニューヨークに出てきたばかりのとても孤独だった自分の唯一の友人のように思えたのかもしれない。または、「ティファニーで朝食を」のオードリーに彼女の姿が少し重なったようにも思う。ロックフェラーセンターは、ティファニーからほど近い場所であることもあるし。オードリーが明け方、誰もいない5番街のティファニー宝石店のショーウィンドーをうっとり眺めてアパートに帰るあのシーンに重ねて。

12月24日、仕事が少し早く終わったこともあって、ぼくは普段はあまり行かないミッドタウンへ足を向けた。そう、ツリーの場所へと。予想どおりそこは人で溢れかえり、午前4時のあの場所と同じ所とは思えないほどだった。センター内のカフェでラテを飲んで少し休んでから、向かいのデパートに入る。もう決めていた。赤いマフラーに。店内はクリスマスセールの追い込みといった雰囲気かと思ったが、意外と空いていて、もしかしたら思い描いているようなマフラーなどないかもしれないと思ったが、幸運にもひとつだけ赤のマフラーが残っていた。プレゼント用にとリボンをかけてもらい、そのままアパートに帰る。そして、深夜3時、ぼくはヴィレッジから自転車をとばしてツリーのところへ向かう。外気は零下だろう。誰もいない見慣れた場所に着いて、そして小さな包みを、いつも彼女が踊る場所だと思われるところにあるベンチにそっと置いて、何度も振り返りながらその場所をあとにした。そしてアパートへと戻り、ベッドに入った。

   To Miss Ballerina   
   Merry Christmas

アパートへと走らせる自転車に乗りながらふと夜空を見上げると、満月が見えた。クリスマスに満月、あまり似合わないなぁ、と思いながら、「30分後、彼女が無事にあのマフラーに気づきますように」と祈った。

おわり

« non title | トップページ | Raymond Carver »

twitter

  • twitter
無料ブログはココログ