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2013/05/05

旅する力

Tabisurutikara_2

旅する力 ~深夜特急ノート~

沢木耕太郎 著

新潮社(新潮文庫)

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ここのところ、自分のなかに『深夜特急』ブームの第二波が押し寄せてしまっている。ずっと前に第一波は経験済みで、どっぷりハマった時期があった。

(第一波から第二波への)経緯はこうです。

テレビで『劇的紀行 深夜特急』というドラマとドキュメンタリーが折り混ざったような、大沢たかお主演の番組が放映されて、わたしにとっての『深夜特急』との出会いは、まずこれだった。ただ、いま思い返すと、香港・マカオの部分、つまり初回は見逃していたのではないかと思う。なぜならば、テレビの影響で原作である沢木耕太郎著『深夜特急』を全巻購入して読んだが、香港・マカオ編は流し読み程度で済ませていたように思うから。夢中になって読んだのは、インド以降だと記憶している。その後しばらくして、自分自身が香港に行くようになって、香港は好きな都市のひとつに収まっているわけだが、その頃にはすっかり書籍の『深夜特急』も、テレビ番組の『深夜特急』も頭から離れていた。

そういうわけで、わたしの『深夜特急』はテレビ番組ありき、だった。

大沢たかおがバックパッカーとして、ユーラシア大陸を乗合バスを乗り継いで旅する情景がなんとも魅力的で、すごく引き込まれた。だから、本を読んでいても、主人公の姿は「大沢たかお」だった。それほど、テレビの企画が優れていたし、彼は適役だった。

井上陽水の挿入歌もよかった。

それで、最近になって『深夜特急』熱が再び出て、さて本があったはずだと探してみてハタと気づいた。その本6冊すべてを職場のある方に貸したままだということを。そして、その方(Y氏)はこの3月で定年退職してしまった。Y氏は中国内地とかシルクロードとか、一般の観光客があまり行かないようなところを、これまで何度となく旅行していて、ことあるごとに色々な話を職場で聞かせてくれた。それで、『深夜特急』にきっと共感するだろうなぁ・・・とこちらから一方的にお貸ししたのだった。あるいは、Y氏にはピンと来なかったかもしれない。そしてついに「あの本は?」と聞けず・・・

結局、買い直している。一冊ずつ買おうと思って、まずは香港・マカオ編から。読み始めると、前回流し読みした1冊目に深くハマる。自分自身が行ったことがあるというだけで、こうも感情移入ができるようになるものなのだなぁ。もちろん紀行本は返還前の香港。あこがれの時代。それから、テレビで見逃したと思われる大沢たかおが香港に滞在する回も、いまではYouTubeで見られることを知り、香港・マカオ編が大いに味わえたのだった。

そして、なぜか2冊目として買ったのは、6巻目の南ヨーロッパ・ロンドン編。今回は後ろから読んでみようと思って。

いまはインターネットが普及して、世界のいろんな場所から自身のことを発信できる。だから、旅先から、また旅から帰ってから個人のブログなどで旅行について紹介できてしまう。これってすごいことだと思う。旅している間も、このことを紹介しようなどと考えを巡らせたりして楽しいし。でも、沢木がこの旅をした時代はこうではなかった。だからか、インターネットが普及する前の紀行文はすごく魅力的で貴重に思えてくる。

と、経緯が長くなってしまった。

『旅する力』は、『深夜特急』執筆にまつわるエピソードや、沢木耕太郎自身のことや旅について思うこと、『深夜特急』に書かれていない旅のつづきなどが書かれている。『深夜特急』の買い直しのため書店に行った際、この本の存在を初めて知ったという次第。

わたしも、年に一度程度だが旅をするので(といっても、沢木耕太郎のそれとは次元が違いすぎるけれど・・・ 何せ正味5日~7日程度のこじんまりしたものだから)、旅先でよく思うことがある。それは、このスタイルの旅はいまじゃなければダメなんだよなぁ・・ということ。『旅する力』にも、旅にはその人が望む旅の「適齢期」があると綴られている。

プロが綴る紀行文とわたしの拙いブログとでは、天と地の差があるにせよ、共感した箇所がもうひとつある。それは、旅について書いたそれが世に出たときに、その旅はひとつの死を迎えることになる、というくだりだ。書く前に自分の内部にあったことが、表現されることによってそれまで維持していた生々しさが消えてしまう。このことは旅についてだけのことでもないと思うが。その感覚はわたしにも少しあるような気がする。だから書かない方が良いということではないのだが。

このタイミングで『旅する力』を読んだせいでか、改めて『深夜特急』を読むと、主人公が大沢たかおから沢木耕太郎の姿になっているのが不思議だ。

旅への思いは人それぞれ。各自が条件と折り合いをつけながら、日常から少しの時間だけ離れる人が大多数だと思う。深夜特急のような旅には多くの人が憧れるけれど、実行するのはむずかしい。でも、いつか自分も少し長めで、大雑把な予定だけの、あるいは無計画な旅に出てみたいと『深夜特急』は夢見させてくれる。

それにしても、沢木耕太郎が旅したころ(70年代)といまとでは、アジアから中東、東欧など情勢が変わっていて、同じ旅をしようにももう不可能だ。大沢たかお主演の番組が放映されたころ(90年代?)は、まだ沢木耕太郎の足どりの余韻が残る時代だったと思う。その後急速に変化してしまった。香港、マカオの返還、中国やインドの経済発展、東西冷戦の終結、西南アジアの深刻で不安定な情勢、ユーロ圏の成立などなど。わたしたちは、まったくすごい時代に生きている。

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