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2013/06/01

夏の嘘

Natsuuso

夏の嘘

ベルンハルト・シュリンク著

新潮社

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新聞の書評を読んで図書館で借りる。

「嘘」がどの物語の根底にも流れている短編集で、個人的には一番目の『シーズンオフ』が読み終わったあともずっと頭に留まっている。

『シーズンオフ』では、怪我で療養中の主人公がシーズンオフの海辺の保養地で、運命的に思える出会いをするのだが、その女性は実は大金持ちで、保養地の別荘などのほかにマンハッタンのイーストサイドにも高級アパートを所有している。主人公もマンハッタンに住んでいるが、一介の音楽家(フルート奏者)で収入はやっと暮らしていける程度だ。療養中、主人公は彼女に自分のことについて音楽家であること以外ほとんど話さない。真実を言わないことがあるい意味「嘘」になる。

たのしい数週間を過ごしたあと、彼はひとりマンハッタンへと戻るが、自分のアパートに戻ると、そこで急激に現実へと引き戻されるのだ。この引き戻されるところの描写がとても巧みで、音のない世界から喧騒の世界に移ったかのような、そんな感覚をいだいた。

その後の二人がどうなるかは語られていない。

ところで、この短編に惹かれた理由は、「シーズンオフ」というタイトルにもある。避暑地や観光地の、人の盛りが過ぎたその場所が好きだから。ようやく素顔を取り戻して、地元の人たちの息づかいまでもが聞こえそうな、そういう時期にその場所を訪れることが好きだ。この短編の舞台はまさにそういう場所なのだ。

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