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2014/08/27

バージェス家の出来事

「バージェス家の出来事」

エリザベス・ストラウト

小川高義 訳

Burgess

ニューヨークで暮らすやり手の弁護士ジムと心優しい弟のボブのもとに、ボブの双子の妹スーザンからある日電話がかかってくる。息子ザックが事件を起こしてしまったと。スーザンは兄弟の故郷メイン州に残り暮らしていた。このことがきっかけで物語は動き出す。そして、それまで落ち着いた暮らしを築いていたかのように思えた兄弟は、幼少のころに起きた父親の死の原因について心に傷を負っていて、ザックが起こした事件と並行して次第に読者の興味を引いていく。ただ、ザックの事件はあくまでもこの物語の動き出しの「きっかけ」と三兄弟それぞれの心の在りようを見せるこれも「きっかけ」であり「主」ではないように思う。人生において誰もが常に何かに悩み葛藤していると思うが、それを小説であらわすには巧みな仕掛けが必要だ。そう考えるとやはりこの小説は絶妙だと言える。長い年月、心のなかにはびこってきた鈍感な痛みは、そう簡単には消えないけれど、考えては肯定と否定を繰り返し、少しずつ痛みは癒えながらいつしか自分の一部になるのだ。それがなければ自分ではないかのようなものになるまで。

また、登場人物一人だけの視点から描かず、それぞれの視点で描かれているので(複数人の考えが表されている)、物語がとても立体的に構成されている感じがした。これは「オリーヴ・キタリッジの生活」と共通しているといえる。

アメリカ東部のメイン州の田舎町と大都会ニューヨークを行ったり来たりしながらの展開もよい。

何があっても兄弟は兄弟で、ここは夫婦と違って、崩れてしまったように思える絆も細々とでも繋がり再生の手助けになることを描いている。絆と呼ぶほど大げさなものではないかもしれないけれど。そして、物語では何一つ解決するわけではないのにラストはとても清々しい。よくわからないけれど、たぶん「なんとかこの先もやっていけそうな予感」が主人公たちにもたらされるからだろうか。

「オリーヴ・キタリッジの生活」が好きな人はオリーヴに愛着を覚えたように、「バージェス家の出来事」では多くの読者がボブを好きになると思う。

2014/08/26

オルセー美術館展

国立新美術館で開催中の「オルセー美術館展」に行ってきた。

Orsay

一度だけ訪れたことのあるオルセー美術館。ルーブル美術館と並んでパリで人気のアートスポットだが、実際に両方の美術館に行ってみて、オルセーのほうが印象に残っている。理由のひとつはそのサイズ。ルーブルは巨大で一日ではとても回りきれない(わたしはパリ滞在中に2回足を運んだ)が、オルセーはそれよりずっと小ぶりでじっくり鑑賞できる。ふたつめの理由として、オルセーが当初駅舎として建設された建物だということ。三つ目は、来館者の意識の違いとでも言おうか。ルーブルでは、とにかく来館者は有名な作品の前で記念撮影をしていて落ち着かない。オルセーではそのような人を見かけなかった。(撮影を禁止されていたのかな?そのあたりは覚えていないが)

オルセー美術館を訪れたときのことを記してあります⇒こちら

前置きが長くなったが、そのオルセー美術館から印象派を中心に84点の名画が来ている。わたしは印象派はそれほど好きではないのだが、でも作品を見ていると穏やかな気持ちになれると思う。風景画がその最たるものだが、今回、肖像画がまとめて展示されている展示室でルノワールの描いた「アルトマン夫人の肖像」を見たときに、他の肖像画(それまで描かれてきた典型的な肖像画)であまり感じられない、なんというか、その人物の内面的なものまで表現されているように思った。アルトマン夫人の一瞬の表情を捉えたというか。肖像画のための構えた表情ではない、普段顔というような。

ただ、個人的にはレアリスムに分類されているマネやクールベの作品に関心がいく。クールベについては、昨年仕事でこの画家の一枚の絵を紹介する記事を書いたのでちょっとだけ思い入れがあるからかもしれない。

印象派とレアリスムは決して対立していたわけではなく、お互いリスペクトしていたようだ。

展示の最後にマネの作品「ロシュフォールの逃亡」がある。

Ro

これは、歴史に刻まれた事件の一場面を画家が想像して描いたもので、マネ晩年の作品とのことだ。ドラマチックな一場面。どんよりした水平線に目をやると、黒っぽい船のようなものがあるが、これは逃亡を助けに来たオーストラリアの船だとか。画家は大病を患っている状況であったようだが、緊張の場面を描き切った感じがすごく伝わってくる作品だ。

国立美術館「オルセー美術館展」公式サイト

余談だが、国立新美術館は千代田線乃木坂駅に直結しているので、アクセスがとてもラクだ。たいがいランチも館内で済ませるので外を歩かなくて済む。雨の日や猛暑の日でも「ちょっと行ってくる」気になれる美術館だ。

2014/08/14

首のたるみが気になるの

ここのところずっと読書を怠っていたので、今月は本を読む気満々だったのだが・・・なかなか充実の読書月間とはいかず・・

そんななか、書店に立ち寄って見つけたのがこの本。

Kubi

「首のたるみが気になるの」

ノーラ・エフロン

阿川佐和子 訳

ノーラ・エフロンというと映画「ユー・ガット・メール」「めぐり逢えたら」「恋人たちの予感」などの脚本や監督で有名。これらの映画が大好きなわたしはすぐにこのエッセイが目に飛び込んできて、即購入。一日で一気に読了。

本の著者紹介で、ノーラ・エフロンは2012年に急性白血病で亡くなっていることを改めて認識する。

内容はときおりちょっと意味が伝わってこない箇所もあったものの、実に軽妙なタッチで書かれている。(阿川佐和子の翻訳も上手なのだろうと思う)著者のニューヨークでの生活の一部も垣間見ることができて、それに共感できるところもいくつかあった。たとえば、わたしの場合「バッグは嫌いだ」である。冒頭、こんな記述になっている。「ここに書かれているエッセイは、ハンドバッグ嫌いの女性、あるいはハンドバッグに手を焼いている女性のためのものである。(中略)ハンドバッグの価格が五百ドルから六百ドルすることにいちいち仰天する女性にも、このエッセイは気に入っていただけると思う。」このあと、ハンドバッグの中の小宇宙がこれ以上にないほど面白おかしく、しかも真剣に語られている!読んでいて、さすがにわたしはそこまでではないなぁ・・と思いながらも、わかるなぁ・・と。わたしの場合、日々の洋服に合わせてバッグを変えないし(半年くらいはほぼ同じバッグで通す)、数万円もするバッグを買うには抵抗がある。ちょっと気を抜くとバッグの中が荒れ放題になりそうな無頓着さがある。著者の場合、最終的に行きついたのがグランド・セントラル駅の交通博物館で買った26ドルのバッグというか袋だとか!

それから、著者が愛して止まなかったアッパーウエストのアプソープ・アパートメントの話も興味深く読めた。以前は家賃安定化条例により守られていたニューヨークのアパートメントの家賃が、その後の条例の廃止で家主が適正市場価格まで家賃を引き上げてよくなり、そのときの自身の状況を、この有名なアプソープ・アパートメントの場合として書かれている。著者がこのアパートに住み始めた70年代か80年代頃(?)から現在に至るまでのこのエリアの変化がわかりやすく描かれている。結局、アッパーイーストに引っ越した著者が、セントラルパークを挟んだこの両エリアについて比較していて、要は両サイドともに便利なのだが、イーストサイドのほうが天気がいいというのにびっくり。イーストサイドのほうがウエストサイドより日差しが明るく冬暖かいと書いてある。なるほど、その地域にじっくり住んだことのある人でないとわからないことだのだろう。面白い。あ、それと、値段が高いものについて、そのコストがいかに格安かを証明するために最終的にカプチーノ一杯分の値段にまで換算するところも面白い!

とにかく、息抜きに何か読みたいと思う方にこのエッセイは最適です。

それから、現在「バージェス家の出来事」もちょっとずつ読んでいて、これは「オリーヴ・キタリッジの生活」の著者の新作なのですが、また感想は後日書こうと思います。

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